東京事務所

移転連載コラム

Vol.

02

始まりは、熱い社内コンペから

2023.10.13

コラム

— 東京事務所が半蔵門から神田へと移ることになったときに、その設計デザインについて社内コンペが行われましたね。コンペの条件は、社内のイノベーション促進などいろいろな目的があったかと思いますが、具体的にどのようなものだったのでしょうか。

吉岡:私はコンペを運営する側として関わりました。コンペのテーマとしては、当社のコーポレートメッセージである「人やまちを元気にする」を発出するにふさわしい場としました。設計与条件は、必要な機能や面積など色々ありましたが、新しい視点や概念を持った提案を期待するため、割と自由に提案できる余地は残すようにしました。参加人数は、個人での提案も、グループでの提案も可能とし、全社から募集を行いました。提案対象エリアについては、1階から3階まで3つのフロアがあるのですが、どこに注力するかということもあえて明確にはしませんでした。結果、個人から10人以上で参加するチームもあり、提案についても、3フロアの全改修を提案する案もあれば、Jチームのように1階に特化した案もあり、最終的に多彩な提案が20(計62人)提出されました。

密度がぎっしりなA3・1枚の提案書が20案 提出日はどのチームもそわそわしていました

松原:こういう社内コンペは割と珍しいのですが、みんな日々の業務が忙しいので、当初は「どうする?」「やる?」みたいな空気が社内にありました。でも、少し時間が経つと、みんなそれぞれに業務が終わってから集まってやっていました。

— ここに広げていただいたどの案を拝見しても、皆さんの本気度、熱量を感じます。すごいですね。「良い案ばっかりどうしよう」となってしまいそうですが、審査はどのように行われていったのですか。

吉岡:各チームの提案は、A3提案書1枚の内容とプレゼンテーションで審査を行うことになりました。

<審査員は、アート・デザイン・ビジネスの分野で特に活躍され、安井との繋がりも深い 中村 政人 氏(アーティスト、3331統括ディレクター、東京藝術大学教授)、中條 あや子 氏( 株式会社Eat creative代表取締役社長)、宮入 小夜子 氏( スコラ・コンサルト パートナー、企業社外取締役、開智国際大学名誉教授)にお願いしました。加えて社内からは、専務執⾏役員名古屋事務所⻑ 井上 孝成、執⾏役員 ⼭浦 晋弘、東京事務所設計部 設計主幹 ⾼⽥ 和⼦ が参加しました。>

まずは全20案のヒアリングを全社公開で行いました。プレゼンの後、審査員による採点が行われ、上位7案に絞り、そこからさらに審議を経て、再投票を行いました。そして、Jチームともうひとつのチームが同数で並んだため、再度意見交換を行い、最終的に強いメッセージ性と東京事務所が変容する期待度を評価し、Jチーム(杉木+松原+小林)が最優秀案となりました。

1日かけて全チームがプレゼンを行いました
審査の様子 模型を作成したチームもありました

Jチーム案「美土代クリエイティブ特区」

私たちは、社員ひとりひとりが自律的なプロフェッショナルとして自ら成長でき、自らつながりをつくり、自分で仕事を持ってこられるような、働き方をしたいと考えている。そのためには、「やりたいことを実現したい人が自然と集まり、自分たちのクリエイティビティを自分たちで成長させることができるカルチャー」が必要と考えた。そのカルチャーを実現させる仕組みとして、新オフィス1階に「美土代クリエイティブ特区」を提案する。
特区でのプログラムは、社員、外部の人を呼び、自分たちがやりたいことに挑戦できる「美土代安井学校」、建築分野の近い人たちが集う「コワーキングスペース」を提案し、自分のプロフェッショナルとしてのキャッチの幅を広げるきっかけにつなげる。
ハード面では、4周を囲われたオフィスに風穴を開けるように1階の道路側を1スパン街に開放することで、内部のアクティビティがまちへ漏れ広がり、神田という文化の深い街で私たちのカルチャーを耕していく風景をイメージした。
このようにわたしたちがやりたいことを「自ら」実現できる場所を設けることは、プロとしての自立性を耕すとともに、社外に対して安井のキャラクターを示す場所として機能する。


— Jチームが最終的に選ばれた、その評価のポイントはどこにあったのでしょうか。

吉岡:私は審査員ではありませんでしたので、あくまで審議の過程を近くで見ていた立場からの感想になりますが、どのチームも非常にクオリティが高い提案でした。その中でもJチームの案は地域性と働き方に対する強いメッセージ性があり、また、良い意味で提案内容に余白があることで、社員みんなで一緒に新オフィスをつくりあげていけるような協調性と柔軟性のある提案であると感じました。事実、審査員の評価だけではなく、事前に行っていた社員投票でもJチームは上位の投票数でした。

— 新しいオフィスは1〜3階と3フロアある中で、Jチームは1階に注力する提案でした。その点を審査員にはどのように受け止められたのでしょうか。

吉岡:確かに、1階に注力する案から、3フロア全体に注力する案まで、さまざまで熱の込め方のポイントが違っていたので、そこをどう評価していくかというのは、議論の中にもありました。

松原:あとは、1階にも賃料が発生する中で、会社の専有部としてではなくまちにひらいてパブリックにするということが、会社としてどうなのか?という空気は少しあったかもしれません。


— そもそも、Jチームはどのように生まれたのですか。

松原:杉木さんは、バランスの良さと、面白いアイデアをちゃんと推し進める人で、客船ターミナルのプロジェクトで一緒にやったことがあって、またいつか仕事を一緒にやりたいなと思っていました。だから、このコンペにトライするなら杉木さんとやりたいなと考えていました。もう一人くらいいると良いよねという話になって、空港のプロジェクトで杉木さんと一緒にやっていた小林さんに声をかけました。小林さんはとにかく手が動く人で、杉木さんからの絶大な信頼がありました。小林さんも是非にと快諾してくれました。

JチームはTシャツ姿でプレゼンを行いました 左から松原、小林、杉木

— 案はどのように考えて行ったのでしょう。

松原:コンペが告知されてから提出まで約2.5 ヶ月ありました。僕らは2週間に1回くらいのペースで打ち合わせをしながら、それぞれのアイデアを持ち寄って進めていきました。その中で、移転を機に会社の雰囲気をアップデートするために、ソフトとしての提案に力が入っていって、1階にどんな人のふるまいがあるべきかという提案に集中させていくことにしました。

杉木:僕個人としては、コンペに勝ちたいという気持ちよりも、こういう会社であって欲しいという想いをぶつけたいという想いがありました。当時アイデアを考えながらそんな話もよくしていました。そういうメッセージ性を持って取り組んでいたことが結果として良い方向につながったのかもしれません。

— 一方で、2、3階のオフィススペースも大切な部分だと思うのですが、そこについては、どのように考えていたのですか。

松原:実際に自分たちが日々働くことになるスペースは、我々も設計デザインの経験があるので、社内の知見も取り込みながらそれなりにデザインできると考えていました。ただ、今回の場合は、現在のオフィスとは違って、1階が外部とのコミュニケーションも図れる環境をつくれるということが大きな特徴でした。それを効果的に実現するためにはどういう空間をつくるべきか、そこの課題感が大きいと感じていました。

— なるほど。ただ、Jチームの案が最優秀案として選ばれた後、実際に2、3階についても設計していかなくてはいけません(笑)。

小林:そうなんです。まず決まったときに、皆さんに言われたのが「で、2、3階はどうするの?」ということでした(笑)。他の案の読み込みを行う中で、私たちのコンセプトに近いアイデアがたくさんあり、ベースの価値観を共有できている提案が多かったことは発見でした。1階のひらきかたは、私たちの案をベースとしつつ、そこにフィットする2、3階の案を取り込んでいきました。

— Jチームの案が、みんなの魅力を受け止める受け皿、器としての案になってからこそ、他の案のアイデアを取り入れていくことに有効に機能していったと。このように、器ではなく中身のつまった完成形の案だったら、そのようなアレンジが効かなかったかもしれません。
 そもそも1階に注力していこうということは、どのような段階で共有されていったのでしょうか。

杉木:社内コンペが行われる前、コンペの要綱をつくるために、若手社員を集めてブレストをする機会が何度かありました。その時に、「1階」は話題には上がっていませんでしたが、自由に使えるスペースがあると良いよね、という話題が出ていて、それはとても印象に残っていました。後日、皆さんからの意見を集約したものが、社内の掲示板に張り出されていて、そこでは1階をなるべく自由に使えるスペースにする案も、アイデアとして出てきていました。そういう声を、きちんと形にしてあげたいという思いもあって、まとめていったところがあります。

小林:社員が無意識のうちにそういう場所が欲しいと思っていたことはうれしいですよね。

松原:古い建物に移転するという肌なじみのいい空間と、自発的に自分の成長のために企画・実現できる「クリエイティブ特区」という場が。会社や社会にとっての刺激や面白さにつながるよう、コンテンツも含めて設計に取り組んでいきたいと思っています。

—器として開かれた1階が、どんな人々や出来事を受け止めていくか、楽しみですね!

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