東京事務所

移転連載コラム

Vol.

04

まちにひらいたオフィスの1階でやりたいこと!

2023.12.01

コラム

— いよいよ移転まで1か月を切りました!今回はまちにひらいた1階でどんなことをしたいか、お手伝い頂いているグランドレベル代表の田中さんとともにお届けします。

田中:私は、2016年に「1階づくりはまちづくり」をモットーにグランドレベルという会社をつくりました。建築設計において、照明デザイナーやインテリアの専門家などと協業するように、1階の専門家としてご依頼を受けるという関係を目指していましたが、当初は全然仕事がなくて(笑)。その後、1階の大切さを自身でも訴えていましたが、時流としても興味を持って頂ける方向になっていきました。一方で、まだまだこの分野の専門家としてお声がけ頂く機会は限られていて、どうも設計者の方々に、自分たちでもできる、と思われがちであることにも気付いていきました。そのような中で設計の専門家集団である安井建築設計事務所さんに今回、オフィスの“1階づくり”でお声がけしていただいたことを、本当に有り難く思っています。設計業務を専門的にする御社が、どうしてお声がけくださったのでしょうか。

杉木:社内コンペで私たちJチームの案が、1階を中心にした提案で、かつまちにひらくということが、ひとつの大きな方向性にありました。あと、僕自身が大学でまちづくりに関する研究室出身なこともあって、建築のハードだけではなく、ソフトのほうにも興味がありました。なので今回のオフィスの1階は、ソフトやプログラムをどうしていったらいいか、というところをサポートしてくれる方たちと一緒に組んだほうが面白いと考え、グランドレベルさんのような運営的な目線を持って空間をプロデュースする会社があるのだと知って、グランドレベルさんしかいない!と思いました(笑)。

左から (株)グランドレベル 田中元子氏 / Jチーム 杉木勇太

田中:ありがとうございます。1階の重要性をお伝えてしていると、オープンカフェを誘致する仕事ですかと訊かれたり、表層的にデザインを施せば良いと誤解されることも少なくありません。1階専門家としての職能は、表層のデザインだけではなく、その中でどう過ごすか、外を通りかかる人々はまちの風景としてそれをどう見てどう感じるか、働き方や生き方の具現化、まちへの社会実装だと考えています。そんな中で、安井建築設計事務所のような建築設計の会社からお声がけいただいたことは有り難く、またJチームの案からは社員の皆さんや、神田のまちに暮らす人たちに対する想いを感じられて、うれしく思いました。設計デザインだけではなく、社内でのコミュニティ醸成でもアドバイスをさせて頂くことになりましたが、先日のミントパーティーを主催されたチームや社内の活動についてうかがえますか。

小林:社内には、ミントパーティーを開催したバイオフィリックやエネルギーマネージメント、スマートシティーなどの取り組みをおこなっているチームが8つくらいあります。会社から建築に関するテーマが与えられて、本業とは別にコストと時間をかけていいので、研究活動をしてくださいと言われています。参加は自由です。

杉木:僕はバイオフィリックのチームに入っているのですが、与えられたことはバイオフィリックについて研究しなさい、ということだけ。どういう活動をしていくかは、自分たちで企画し、予算を組んでいきます。最初は受付フロアや執務室などに、緑があった方がいいよねということで、社内にグリーンを増やしたり、同時に大学の先生と組んで効果測定なども進めていくようになりました。

田中:テーマだけが与えられて、社員たちが能動的に企画して考えて、すぐに実行していくという流れは、まさに次のオフィスの1階のひらき方、まちの人たちにアクティブに使ってほしいという話にもつながると思いました。

杉木:そうなんです。4階の受付フロアではじまったことなのですが、それが新しいオフィスの1階の使い方をイメージさせる最初の事例になればという想いもありました。自発的にこういう活動が生まれていくようなことが、新しいオフィスの1階でサイクルしていくといいなと思っています。

田中:さまざまな活動が1階で起きて欲しいですね。お互いの状況が居合わせる状況が、想像を超えた展開になっていきそうです。バイオフィリックひとつからも、そこで他の社員の方が接することでコミュニケーションが生まれたり、社内の異なるテーマに対する波及効果もたくさんあると思います。さらにそのさまがまちの日常風景として目に見えることで、さらに相乗的に展開する場所になっていくといいですね。

杉木:そういう意味でも、先日のミントパーティーは、次の1階に対するビジョンや想いが伝わる良い機会となりました。あの空気感はとにかく素敵でしたし、主催したバイオフィリックのメンバーたちも、誇りに思ってくれているようでした。

バイオフィリックチームが4階受付エリアでミントと野菜の栽培を開始!なんとプランターは自主発注・施工です。

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大西:新しいオフィスの1階を日々誰が運営をしていくのか、責任を持って背中を押していくのかもまた、大切なポイントになっていきそうです。

杉木:そういう人たちを会社の中で育てていかないといけないとも考えています。もちろんJチームも関わり続けていきますし、これからワークショップなども重ねていくと、興味を持ってくださる人も増えていくと思うので。さらに自分たちだけではなく、昼間の時間のキープレイヤーをまちに暮らす人で見つけられたりするとうれしいですね。

田中:人材募集などでなく、「こんな楽しい場所なら、私にやらせてよ」って声をかけて頂ける形となっていくよう、まずは楽しみましょう!

小林:私、日曜大工の講習とかやりたいです。

田中:それは小林さんが先生なのですか。

小林:はい。それでも大丈夫です(笑)。私は小さいころ、日曜大工をたくさんやる幼稚園に通っていました。皆で外に出て親と一緒につくることも多かったです。それがとても印象的で。でも、小学校からはそういう環境がなかったんですね。DIYをしたい大人も集中できるし、工具を扱う練習にもなるし。安井建築設計事務所は建築のことをやっているわけですから、そういうナレッジともつながりがあると思います。

大西:それは楽しそうですね。あるスペースは、壁や天井にいろんな工具が備え付けられていたりして。そういう場所があってもいいですね。

小林:工具はそれ自体がインテリアにもなります。そういうことも踏まえて、具体的なインテリアに反映させていかなくてはと改めて思いました。

杉木:僕は、企画時に、神田祭などのお祭りの際に、たくさんのまちの人たちがオフィスの1階に入ってきて、ここが縁日的になったら良いなということを妄想していました。
社内で話をしていると、いろんな世代の社員がアイデアを話してくれます。自分たちの卒業設計の作品展をしてみたいとか、夜はみんなで映画を観たいとか。「知恵の市」という社内のイベントで、普段の仕事では見えてこない趣味を持っている人がいることもわかってきました。カメラ好きの人たちがいたので写真展をやってみようとか。そういう一人ひとりの趣味が、どんどん見えていく場所になっていくと面白くなっていきそうです。

知恵の市 1つのお題をもとに登壇者たちががパーソナルなエピソードや建築に対する思想を交えて自由にプレゼンする会。写真は杉木さんによる「杉木の課外活動」。

稲山:僕はキッチンカウンターの前に立って、カフェマスターをやってみたいです。普段設計をしている中で、例えばカフェ的なコンテンツを盛り込みたいという意見があると、「楽しいかもしれないけど、本当に人が来るの?」ということが気になり、受け手側がその場所に接続していく部分がどういうことなのか、より興味が沸いてきました。

田中:カフェマスター最高ですね!やりたいことは特にないかも、という人にも、サポートすることが大好きな人もいたりします。さまざまな方の化学反応が1階で起きていく瞬間が面白いと思います。

小林:何をするかということ以上に、こういう場所が自分の働く職場として日常になったときに、どんな風に自分が変われるかということに興味があります。

田中:たとえばカフェ的な設えや工具といった、ここで起きた出来事の一端が、日常から見えていること、まちの方からも見てわかることが大事ですよね。真っ白な空間を自由に使ってくださいと言われても創発されないので、今日うかがえた想いもデザインに活かしていきましょう。

1階は社員の自由な活動を受け止める器としてデザインを進めています。

田中:コミュニティを創発させたいという想いを持つ場所にありがちなのですが、盛り上げようとするあまり、何かを与え続けていくと、参加者側は「次は何をくれるの?」と待つ姿勢になりがちです。静かで、人が少ない日があったっていいし、その中で、「あなたも気軽に使ってみてください」ってスタンスを伝えていくことによって、社員の人たちもまちの人たちも、誰かが何かをしてくれることをただ待つのではなく「私も何かやらせて!」とか、「ここに居てもいい?」と自然な形で起動していくと素晴らしいですよね。

杉木:さっきここ(会議室)で「休憩を」と言ったときに思ったのですが、そう言われてもそんな気にならないですよね。でも新しいオフィスの1階で打ち合わせの合間に、オープンなキッチンでコーヒーを淹れて、皆さんと立ち話をするだけで、いろいろなことが変わっていきそうです。今日はお話させていただいて、ありがとうございました。よりワクワクしてきました!

聞き手・文 グランドレベル

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